仕事が原因でけがや病気になったり、障害が残り、あるいは死亡した場合にその勤め人や遺族に対して必要な医療や所得の補償を行うのが労働者災害補償保険という制度です。
名前の中に特別な言葉が含まれているように、他の社会保障と異なるポイントがあります。
「補償」という言葉です。英語ではcompensenteとなり、事故やケガなどによって引き起こした損害を補填、穴埋めをするという意味となります。
この点で他の社会保険とは異なることにまず注意していただきたいです。
さて、ここで、社会保険について知識のある方はここでお察しがつくかもしれません。
「怪我や病気の保障には医療保険があるんじゃないの?」
「障害や死亡時には年金制度があるじゃない?」
その通りです。この点における違いがこの保証の重要なポイントとなります。
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他の社会保障との違い
他の社会保険と異なるポイントは、「事故の原因が異なる」ということです。昔は病気やケガが起きても、医療サービスは医療保険から支給されていました。
しかし、「業務上」のけがや事故は、たとえ過失がなくともその事業主が責任を取るべきであるという法理論が確立してきたのがこの労災保険の背景にはあります。
しかし、事故の種類によっては金額が大きすぎてその会社自体が倒産してしまったり、相手に支払い能力がなかった場合には保険料を受け取ることができなくなる場合があります。
このように、保険が適用された時に会社に大きな影響が出てきます。会社運営をしているからには大きさは異なれどリスクは避けられないものでしょう。そのリスクにうまく対応するために出来上がったのが、この会社の損害を補填する労災保険です。
業務上の定義
この労災保険で重要となってくるのが、先ほど触れた「業務上」という条件です。この業務上という言葉を巡っては、様々な議論がなされてきました。
例をいくつか出します。これらは「業務上」の定義に当てはまるかどうか、予想してみて下さい。
A「出張で宿泊中のホテルが火事になって死亡した。」
B「仕事を巡って同僚と口論になり、殴られたのがきっかけで死亡した。」
C「会社が費用を負担して行われた飲み会に参加して事故にあった。」
D「隣にある工事現場で爆発事故がありけがをした。」
いかがでしょうか。業務上、外の認定については、一つ一つの事案について詳細な事実関係を調べたうえで判断されるため、一見似たような事案でも、結果が異なる場合があります。些細な違いによっても、この認定に引っかかるかどうかは当事者にとっては大きな問題となってきます。
答え合わせをしてみましょう。Aについては、一般に業務上と認められます。Bについてはその口論の内容が業務にどれほど影響しているかどうかによって結果は変わってきますが、多くは個人的な業務外行為と見なされます。Cは、過去には職責上幹事として参加していた人に対しては認定された例もありますが、一般には参加が強制ではないとして、多くは認定外となっています。ですが、このような場合は参加がほぼ強制ではないかとして、納得できない方もいらっしゃるかもしれません。そして、Dについてはいかがでしょうか。一般には仕事中の事故でも自然災害によって起きた事故は認定外となりますが、このケースのように職務上定期的に伴う危険であった場合には、認定されたケースも過去にはあります。
けがのほかに、業務上の病気も補償対象となります。
これに関しては業務上に因果関係などは医療的判断が必要となり、上記の問題よりも難しくなるケースがあります。
そのため、業務上の病気に関しては、労働基準法施行規則別表というもので、職業病の有害因子ごとに整理分類し、基準を明らかに示しています。
通勤災害の定義
「業務上」という定義のほかに、「通勤」に関しても定義が重要となってきます。
一般に通勤災害というのは、勤め人が就業に関して家と仕事場を合理的な経路によって往復する通勤途上で発生するケガ、病気、障害のことを言います。マイカー通勤の人が自宅から少し離れたところにある駐車場に向かう際や、子供を保育所に迎えに行く際に起きる事故も、通勤災害に認定されます。
対象
労災保険には加入要件は存在しないため、働く人ならだれでもはいることができます。しかし、実際に入るかどうかは自分で決められるものではありません。加入の義務は勤めている会社に任せられているため、会社の判断で加入し、従業員全員に適用されるものです。
また、以下の事業は例外として労災保険が適用されません。
・従業員が5人未満の個人経営の農業・水産業
・常時使用する従業員がいない個人経営の林業
・国の直轄事業、国や地方の官公署(代わりに労災保険と同等の独自の制度があります)
具体的な給付内容
・療養補償給付
療養補償給付は労働者が業務上負傷したり、病気にかかって治療を必要とする時に給付が行われます。通勤災害により負傷または病気にかかって治療を必要とする場合には療養給付が行われます。
・休業補償給付
休業補償給付は業務上のケガや病気の治療のために休業したときに、休業4日目から賃金の補償として給付を受けることができます。3日目までの期間は待機期間と呼ばれ、業務災害による休業の場合にはこの期間の補償を事業主が平均賃金の60%を支払うことで行うこととなります。
休業補償給付より支給される金額は、1日につき給付基礎日額の60%です。また、労災保険の社会復帰促進事業(※以下の別証で説明)から休業補償給付にあわせて1日あたり給付基礎日額の20%が休業特別支援金として支給されます。
・傷病保障年金
怪我を負い、療養し始めてから1年と6か月以上経過してもまだ完治していない、もしくな障害等が残っているという方に限り、傷病の等級に応じた金銭的な保険給付を受け取れるものです。
・障害補償給付
業務災害や通勤災害の傷病が治った後で障害等級第1級から第7級に該当する後遺障害があらわれた場合は障害の等級に応じて下記別表1の障害補償年金が支払われる保障です。
・遺族補償給付
被保険者の収入によって生計を立てていた遺族に対して支払われる給付です。ここで注意していただきたいのは、妻以外の遺族はある程度高齢または年少であるか、一定の障害の状態にあることが受給要件となっていることです。
給付の申請手続き
保険給付の申請、労災保険の加入申請、保険料の申告などの手続きは、会社の所在地を管轄する労働基準監督署です。
また、実際のケガ、病気、死亡などの災害の内容や事故の内容によって手続きの方法や手順は異なります。
新規で社会保険に加入する場合の手順はこの通りです。
手続きの時期:加入義務の事実発生から5日以内
提出先:事業所の所在地を管轄する年金事務所
※実際に事業を行っている事業所の所在地が登記上の所在地と異なる場合は、実際に事業を行っている事業所の所在地を管轄する年金事務所になります。
提出方法:電子申請、郵送もしくは窓口持参
社会復帰促進事業
社会復帰の促進事業としてさまざまな事業が存在しています。以下の三つが具体的な事業です。
①医療リハビリテーションセンターや総合せき損センターなどの設置運営や義肢などの補装具の支給に事業
②特別支給金や労災就学等の支給など、被労災者とその遺族の援護に関する事業
③健康診断の助成、健康診断センターなどの設置運営などの安全衛生確保と賃金の支払い確保を図るための事業
の三つがあります。それぞれが機能することにより、労災保険利用者の社会復帰というアフターケアまで充実して補償しています。
基本的には医師の診断書などの必要書類を揃えて、給付金の支給請求書と共に労働基準監督署に提出しますが、個人で手続きを行うのは大変なので、通常は会社が手続きを行ったり、会社の指示に従って書類を作成することも可能となっています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。労災保険の概要を少しご理解いただけたでしょうか。
労災保険の保障は、国が主体で行っています。また、その案件が業務上であるかどうかといった認定の判断は、労働基準監督署が担当しています。
他の保障とは異なる特色を持つ労災保険でしたが、現代の皆さんにとってはこの保険が当たり前になっています。是非、賢く活用して、もしもの時に備えてください。
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